BCPコラム

企業BCPの現状と傾向と問題点

皆さんの会社でBCPを策定して実際の運用に苦慮されているという方や、これで大丈夫だろうか、と不安を感じておられる方々が多いのではないでしょうか。

昨年スタートしたBCPSOSを通じて、多くの企業や大学等の見直しをお手伝いしまして、ある共通事項が見えてきました。

それは発災直後からの初動対応がほぼ抜け落ちていることです。

先の相談いただいたBCP担当者に初動対応の訓練や手順書などを提案しますと「災害対応(自衛消防隊や防災担当)は別の担当者がおりまして防災訓練はやってます」と言われます。この担当者の方々のBCPは、自分たちは多きな被害はなく被害が出ているのは他のエリアの支店や工場などの前提です。本当に自分たちのエリアが罹災しないのですか。不思議な考え方です。

BCPの初動とは災害対応であり発災直後から時系列に大きくなる人的、物的、被害をいかに抑え込み制圧するかの、ダイメージコントロールです。

このグラフをご覧ください。

これは良く使われるBCPを説明するグラフです。 縦軸は操業レベル、横軸が時間軸です。
ここで発災しますと被害の拡大により操業レベルが下がります。

初動対応が不十分だとA地点迄落ちて回復するまでに時間とコストがかかります。
初動対応を的確に行い被害拡大を抑えることでB地点で止まり回復時間とコストを抑えることがわかります。

初動対応が著しく不適な場合Cまで落ち込み操業レベル0になることも多々あります。
(東北地震時の津波などは初動対応もほとんどできずにただ避難のみでしたが避難ができれば人的損害は防げます。)

今年2月に埼玉県美芳町の大手物流倉庫火災での初動対応で先のグラフでCまで落ちた例を簡単に説明いたします。

【大手物流会社 火災の時系列状況PDF】
0900 火災確知
     消火器21本で消火不能
     屋外消火栓 ホース1線 消火不能(起動装置押さず)
0914 119番通報 
     2、3階とも初期消火対応無、119番通報無
0922 消防隊到着 ホース1線消火開始
0925 1階火災鎮圧  ただし2、3階延焼

消火訓練は実施、ただし水消火器のみ、消火栓の訓練無
初期消火者 2名負傷 内1名重症

被害総額約200億円

これは日本の標準的自衛消防隊のレベルと考えられます。

私は阪神淡路大震災以前から大手生命保険会社のテナントビル 当時全国で600施設ほどありましたビルの共同防火管理協議会の自衛消防隊の訓練指導をしておりましたが、 この阪神淡路大震災から根本的に指導内容を変更しました。

震災以前は火災を確知したときは「速やかに119番通報後に、無理に初期消火せずに避難させること」でした。6,7分で消防隊が到着することが前提でした。当時の消防当局の指導もほぼその通りでした。

しかし阪神以来、大規模災害の時は消防はもちろん警察、自衛隊といえども来ない、を痛感し、改めて自衛消防隊のレベルUPの必要性、さらにそれ以外の人たちも最低限の初期消火、救助救命等の術を身に着けないとだめだと強く感じました。
震災後の消防当局の指導も「大災害時は我々消防は速やかに対応できません、ほとんど対応不可能です。
したがって皆さんで初期消火の完逐、救助救命ができるようにしっかり訓練してください」となりました。

皆さんが策定されておりますBCPは、大規模災害を想定しているはずです。
ですが、自分たちは被害に遇わない、罹災しないを前提に計画されておりませんか。
消防もレスキューも自衛隊もしばらく来ないのです。

ほとんどの日本の企業や団体は助かった後に生じるトイレの心配、備蓄食料、水にかなりの予算を付けますが、肝心の初動対応の訓練、装備、メンテナンスには予算を付けない、訓練もほとんど皆無のところが多いのが現実です。
一部では自衛消防隊が操法大会のために訓練をしておりますが他の人たちは一度も消火栓訓練の経験がないところがほとんどです。
今までの大規模災害で餓死者は0だと思いますが。

阪神大震災発災の1995年4月に地元消防団に入団し現在も現役です。
20年以上にわたる活動の中で実火災消火、救助救命などの実体験を多く経験しました。

消火や救助救命では危険がかなり伴います。
したがって生半可な知識や指導ではとても対応できません。
経験のあるしっかりした指導者が必要です。さらに社内で指導をできる人を育成することが肝心です。

具体的な訓練をいくつか提示いたします。

1.発災時の安全注意喚起呼びかけ
2.逃げ遅れ怪我人の確認 119番救急要請(通報内容の訓練)
3.危険個所、火災発生などの確認 119番火災要請(通報内容の訓練)
4.怪我人等の救護所への搬送方法
5.止血などの応急処置、AEDの使用方法(安全管理)
6.初期消火訓練(消火器、消火栓使用方法と)
7.消防設備の起動方法(排煙設備等)と避難器具の使用方法
8.避難誘導(非常階段での誘導方法)
9.初動対応での保護具の使用方法
10.安全管理の徹底 

など一部ですが実践的な訓練が必要です。

それでは最後に防災訓練の非常識をいくつか提示しましょう。

1.初期消火訓練:水消火器で火の的に当てる訓練
           →グリップが軽いが本物は固く、女性だと握りきれない
           →実際の粉末消火器は想像以上に消火できない
           →消火訓練は屋外で行い、実火災の初期消火は屋内で発生
           →消火失敗のほとんどは煙で火点に近づけない

2.煙体験訓練:スモークマシンで白煙を発生させてテント内を移動する視界不良訓練
          →実火災時の煙は視界不良よりも呼吸不能が現実
          →酸性有毒ガスにより気道熱傷を生じる
          →煙を吸い込み重症になる

消火訓練で簡単に消火器で消せるぞと思い煙体験訓練で煙の怖さを知らずに初期消火して死亡した例が過去に多々あります。2次災害です。
それでは最後にいかに粉末消火器が消えないか、消火の際、煙・消火剤・炎が 自分に降りかかるかの実映像をご覧ください。


「被災者の声を、より強固な災害対策構築に役立てます」
熊谷 仁 東京営業所長
プロフィール詳細

1989年 コンサルティング業務を開始。 自衛消防隊の教育訓練に重点をおき、発災後時系列による対応の優先順位付けや、BCPを円滑にスタートさせるための現場初動対応(ダメージコントロール)を提唱。現在の災害対策のスタンダードとなっている。また、自身が開発、製造する火災緊急用防煙マスクは、フルフード型としては国内で唯一(一社)日本消防設備安全センターの個別評定を取得している。 1995年から東京消防庁本田消防団員として災害現場へ出場多数。 公益社団法人 日本火災学会 会員、特定非営利活動法人 日本防火技術者協会 会員、火災避難用呼吸保護具技術検討委員会 委員

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